夢、ひとつめ
「マウスはいりませんか」
すこし嗄れた男のものの声が、路上に響く。
その男は赤い頭巾を被っており、目元は見えないが、その立ち居振る舞いが美麗な青年であることを示している。
しかし、そんな男の声に耳を傾ける者も、男の姿に目を奪われる者もいない。
それはまるで、そこにそもそも存在してないような錯覚さえ覚えさせるほどだった。
「マウスはいりませんか」
男は引き続き、籠にこんもりと詰められたPCマウスを売り続ける。
そう、PCマウスである。
パソコンのカーソルを動かす時に使うアレであり、ダブルクリックをする音が心地よいアレである。
そら売れるわけねえ
などと思っていると、赤頭巾の向こうと目が合った。
気がつくと、居酒屋にいた。
目の前には、目が合ったままの青年が、僕に一抹の期待を寄せるような表情を向けている。
両隣の老けた男どもの、まるで賊のような下賎な笑い声が響く。
不快感を覚えた。
夢はそこで終わった。